千円札三枚と、胸ポケットの一万二千円

米を栽培する自分は、米を売る商人も兼ねる。

ところが商人のほうはどうもおぼつかない。受け取った現金を、軽トラの運転席やダッシュボードにポイと置いてしまう悪い癖がある。今日もそれでやらかした。

最後の客であるCさんから、米代として一万二千円を確かに受け取った。これはすぐに胸ポケットへしまった。

ところが帰宅後、「預かったお金は運転席に置いたはずだ」と思い込んだまま現金を確認すると、なぜかあるのは千円札が三枚、三千円だけ。

「あれ、三枚とも千円札? 一万円札がない!」

ここで一息つき、記憶をたどればよかった。

ところがなぜか、「Cさんが勘違いしたのではないか」と即断してしまった。おまけに、

「紙幣にはあなたの指紋も残っているはずです」

などと、まるで名探偵気取りのメールまで送ってしまったから始末が悪い。

そして送信した直後のことである。

何気なく胸ポケットに触れた瞬間、血の気が引いた。

そこには間違いなく、一万二千円が入っていた。

……では目の前の三千円は誰のものだ?

記憶を高速回転させると、ようやく午前中に寄ってくれたAさんから受け取った精米代だったことを思い出した。

先客の存在が頭からすっぽり抜け落ち、最後の客であるCさんとごちゃ混ぜになっていたのである。

つまり事件は最初から存在しなかった。

私ひとりの大勘違いだった。

人を疑い、あまつさえ指紋まで持ち出して大恥をかいた。

Cさん、疑ってしまい本当に申し訳ありませんでした。

幸い来年の予約もいただいているのだが、この名探偵の推理力まで買われたわけではないだろう。いや、そう信じたい。

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