玉ねぎの種購入:固定種に決めた

今年は玉ねぎの種を買う予定など、まったく無かった。ところが今、方針は大きく変わった。種は買う。しかも、固定種限定でいく。

その決意を静かに固めることになったのは、畑で立ち尽くした、あの一瞬の出来事がきっかけだった。

花は咲いた。茎もしっかり上がった。風に揺れる花房は、まるで「今年もちゃんとやりますよ」と語りかけてくるようだった。ところが──玉がない。種房(しゅぼう)の中が、驚くほど静かで、空っぽだった。その静けさが胸に残り、私はしばらく畑の真ん中で動けなかった。ただ、風の音だけが耳に入ってきた。

思い返せば、一昨年の秋にまいた種袋の玉ねぎは、昨春に見事な大収穫となった。その勢いで、収穫した球の一部を植え直し、初めての自家採種に挑戦した。黒い種がざらざらと落ちるあの感触は、農家にとって小さな歓びだ。

「玉ねぎは自家採種でいける」──そう思ったのは自然な流れだった。その種を昨年の秋にまくと、また今春には大収穫。二代目も力強く育ち、畑はにぎやかだった。

「佐藤農園の玉ねぎは、このサイクルで続けられる」そう信じて疑わなかった。そしてこの夏。三代目の種取りに挑んだ私は、冒頭の“空っぽの花房”に出会ったという次第だ。花は咲く。茎は立つ。なのに、種房だけが静かに欠けている。黒い種が一粒もない。まるで玉ねぎが「そろそろ別の道を選びなさい」と静かに告げてきたようだった。

調べてみると、これは玉ねぎのF1の宿命。一代目は力が強く、二代目もなんとか踏ん張る。しかし三代目になると、花を咲かせる力はあっても、“種をつくる力”がふっと消えてしまう。自然の摂理は、時に静かで、時に厳しい。農業は、思い通りにならないところが面白い。

今年の玉ねぎが見せた“静かな空白”を受け止め、私は決めた。この秋は固定種をまく。昔ながらの、世代を重ねても揺らがない玉ねぎだ。

来年の春、畑に立つとき、どんな姿を見せてくれるだろうか。

佐藤農園の玉ねぎは、ここから新しい物語に入る。

(固定種:札幌黄泉州黄玉葱愛知赤玉葱

(F1は、違う性質を持つ親を掛け合わせて作った「最初の世代」。そのF1から種を採ると、F2(2代目)になる。さらに種を採れば、F3(3代目)。)

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