梅雨明けが近づき、里の田んぼは一斉に中干しの季節を迎えた。水を抜き、土を乾かし、根を張らせる。稲作の大原則。長年受け継がれてきた常識だ。
「中干しをしない田んぼなど、あるのか」。そんな無言の圧が、あぜ道に漂う。だが我が田の分げつは芳しくない。ここで周囲に倣えば、ようやく勢いづいた稲の成長に、自らブレーキをかけることになる。さて、どうする。
専門家の見解は割れ、AIに問うても答えは出ない。ならば、水加減を調整し続けるしかない。リスクは承知している。台風が来れば倒伏の恐れもある。
分げつとは、一株が何本にも増える株分かれのこと。理想は一株二十本。穂の数、ひいては収量を決める要だ。通常は過繁茂を抑え、風通しを確保して病気を防ぐ。このため、この時期に中干しを行う。
周囲は今、絶賛中干しの真っ最中。だが我が田は、まだ水を湛(たた)えている。
稲を信じた選択だと言えば聞こえはよい。
吉と出るか凶と出るか。答えは教科書にも、専門家にも、AIにもない。やがて、この田んぼが教えてくれる。すべては自己責任。孤高の選択だ。